ひとてま堂に出した山下理恵さんの酒器は、倉敷の骨董屋さん「RETRO STORE サイ・ズ」をお借りして撮影した。ほんのり暗い店内や、古いものが醸しだす雰囲気が好きで、ひとてま堂で扱う作品を何度かここで撮らせてもらっている。
<サイ・ズのこと>
私にはどういう時代の、どういう素性のものか、またどういう使い方をするものなのかすら、店主に聞かなければわからないものが並んでいる。わかるのは、元々は別の場所にあって、持ち主が手放したことにより、こうして店先に並ぶようになったということだ。つまり、ここの商品は、誰かにとっては価値のなくなったもの・・・ということ。
誰かに必要とされなくなったものが、別の誰かによって価値を見出され、新しい場所に渡っていく。骨董屋に並ぶものには、新品がすんなり買われていくのとは違う、ドラマティックなストーリーが秘められていそうで、魅かれる。そのうえ店主から、しばしば本来の使い方ではない、斬新な使われ方をするために買われていった話しなど聞くと、古いものが急にキラキラと輝いて見えてくるから不思議だ。
古いもののほうがしっくりくる、使われ方。カタチや色が不均一だったり野暮ったかったり、「今作ったら、こうはならないだろう」という、技術の不確かさから生まれてくるゆるい感じや、使われているうちに加わった傷やくすみが、新しいものにはできない仕事をする・・・ということなのかもしれない。
「さいちゃん、なんかいい感じに添えるものないかな・・・?」撮りながら店主に相談すると、「これなどいかが?」と、分厚いクヌギのお盆を出してくれた。
なるほど。不思議としっくりくる。 文・たぐちりつこ
RETRO STORE サイ・ズ →倉敷市船倉1241-3